ウルタール芸能事務所応接室

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> 加田住 レン(1335)
不動 綾人(ENo.1336)
ポキポキ♪

「わ」

物思いに耽っていたため、手元のスマートフォンから陽気な着信音が流れいささか間の抜けた反応をしてしまった。

まさかそんなタイミング良く……と画面を開き、目を見張る。

5/3 08:43:15
一方その頃。
加田住レンは自宅のソファーで寝ころびながらなんとなくスマートフォンを眺めていた。
遊び友達や知り合いからの連絡を返すに返せなかった時期が長く、多方面からの連絡がたまっている……。

「めんどくさい……」

眉をしかめてそれらの連絡を見なかったことにした。
そもそも、自分の状態をどう説明していいのかわからない
理由あって事務所から一歩も出れなく……短時間なら可能だが、とにかく出られない。
そうなってしまった体ではどうせ誘われても断るしか無いので縁を切られるのを覚悟で放置するしかなかった。

(まぁどうせ僕も適当な付き合いしていたしな……)

指で弾く様にスクロールし、もうスマートフォンを放り投げてしまおうかとしたその時。
いっそう人目を惹く茶髪の人物のアイコンが目に入った。

「あ!あ、あ、あ!!あー!!!」

慌ててトーク画面を開くとそこには自分の安否を気遣うメッセージが他者と同じように綴られている。
違うのはその人物に対しての自分の心の寄せ方。

「ああ~……迷惑かけないように黙ってようとして、かんっぜんに忘れてたぁ」

顔を覆う。
今更後悔しても仕方ないのだが、これは怒られても仕方がないなと腹を括る。
そして

(綾兄ィなら……わかるよな、多分。だから)

キーボードを指でなぞり、お気に入りのスタンプで挨拶して。

『お久しぶり!元気してた?』

到底反省しているとは思えない呑気な言葉で長い間放置していたトークへの返信を果たしたのだった。
5/3 02:34:35
> 不動 綾人(1336)
不動 綾人(ENo.1336)
「……俺みたいになってなければいいんだけどな」

小さく呟いて、「加田住レン」の最後の──何事もなく日常を送っていた頃の脳天気なメッセージを見つめ、またひとつため息をつくとスマートフォンをロックし頭を振った。
4/30 02:59:43
> 不動 綾人(1336)
不動 綾人(ENo.1336)
個人で活動をしている新進気鋭のシンガーソングライター不動綾人は、かつてインディーズロックバンド「BLACK FOG」のボーカリストを務めていた。
その頃、同じ箱で歌うことになっていたマルチタレント・加田住レンと出会ったのが始まりだった。

彼女は当時まだ売れておらず綾人もその存在を知らなかったが、自分が歌い終わった後「歌上手いね」と話しかけてきた彼女には何か惹かれるものがあった。
女性としてではない。もちろんレンは美しい少女であったし、その不思議な虹色の瞳も吸い込まれそうな魅力があった。しかし、綾人が彼女をひと目見て感じたのは、シンパシー

自分と同じく、ヒトならざるものと深いつながりがある。

身体の節々が樹になっている女。
彼女の霊核にいるそれが害のないものであることはすぐにわかった。
そして、「マイクに不慣れですぐハウリングを起こしてしまう」と気さくに接してくるこの少女がいかに危なっかしい状態なのかということも。

にこやかにマイクの扱いのアドバイスをし、打ち解け連絡先を交換することに成功した。
歌手としての活動はいわば趣味のようなもの、綾人の本懐は退魔師として世界の安寧を守ること。
それゆえ日頃から持ち前のコミュニケーション能力や時には策略をもって強力な者や敵に回すと危うい者などを味方につけることにしているが、この時の綾人はただ加田住レンという少女の身を案じる一心で繋がりを持とうとしたのだった。

……そうして気にかけ定期的に連絡を交わす関係へとなった彼女だったが、ある時を境に連絡が途絶えた。

レンの音楽を聞いたファンの集団自殺未遂事件。
そのニュースを聞いたのは、綾人が腹違いの弟の存在を知らされ故郷の京都へと帰り、一緒に暮らしていた頃だった。

弟はとある事情から社会と隔絶されて育ち、この世界で生きるには自分の助けが不可欠だった。
──だから、行けなかった。肝心な時に安否を伺うメッセージを送ることしかできない。
それが返って来ず、しばらく経って別の人間からしばらく連絡が取れない旨の手紙が来てしまっては、もう成すすべがなくただ無事を祈るのみだったのだ。
4/30 02:59:08
不動 綾人(ENo.1336)
陽桜市 某マンション

メッセージアプリの連絡先を整理していた不動綾人は、ふと下へ下へと追いやられたトークの名前に目を留めた。
──加田住レン。1年ほど前に自分が送った彼女の安否を伺うメッセージを見て、綾人はひとつため息をついた。
4/30 02:55:39
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